活法の理論
三位一体
活法は別名「三位一体療法」と言われます。三位とは、「神(しん)」、「身(しん)」、「心(しん)」のことです。
「神」とは心霊的なものを指す場合もありますが、活法では「環境」と定義し、環境からの影響を分析し対処します。三位を一体と捉えることにより次元の高い調整が可能となります。
超自然体
神、身、心が重なる、その中央に超自然体があります。超自然体とは「歪みのない心と体」と定義されています。言い換えれば、「何をしていても大丈夫な体」のことです。これは、活法が目標とする健康の概念です。
陰陽
活法における定義は、左右同質にして整合しているもののことです。左右同形を求めることはありません。
術者は多面的な観察で患者を分析し、陰陽の成立を目標に術を操ります。
調整の哲学
体は無理な力が加わると反発します。防衛反応が働くからです。活法ではこの防衛反応を避けるため無理な力は用いません。
術者が患者を矯正するのではなく、患者が(本来的に)なりたがっている状態に調整していくのが活法です。
「治そう」と思えば「治らない」が生まれます。術者のエゴは対立を生むだけです。患者の症状に対応していくことで、症状の有る世界から無い世界に患者を導きます。
上昇活気
活法では、すべての手技において上昇させる方向に調整を行います。高い位置にあるものがエネルギーも高いと考えるからです。下降と拡散で低下したエネルギーを集中させ上昇気流の乗せることで、活力を回復させます。調整とは、いわば人体における天地の環流を手助けすることです。
運動の視点から見た場合、位置エネルギーは運動エネルギーに転換できるため、高さを得るとパワーを発揮しやすくなります。武術を由来とする活法の調整哲学がここにあるのです。
痛みの三層構造
痛みを三層構造として捉えます。起因点、原因点、発現点があります。
起因点とは「きっかけ」であり、原因点は「悪いところ」であり、発現点は「痛いところ」です。
活法では発現点に捕らわれることなく、総合的に痛みを分析し、それぞれに対応します。
歪みの定義
活法は、骨格的な歪みに対して骨を正そうという発想がありません。なぜなら、骨が骨の意志で動くことはないからです。
骨は付着している筋肉の緊張(収縮)によって動きます。何かしらの原因で緊張状態が続くと、骨は中立のポジションから外れたままとなります。これが歪みです。活法では、筋肉を緊張させている原因にアプローチします。
また、活法から考える正しい姿勢とは「時と場合に応じた姿勢」のことであり、まっすぐな姿勢を指すわけではありません。
始動点と支点の移動
時に疼痛部位が動作の起点になってしまうことがあります。痛みに意識が集まりすぎると、疼痛部位から動作が始まるようになるからです。しかし、一般的に本人が自覚することはありません。
活法では初動を変えるテクニックが多く存在します。始動点が変われば、それに伴う支点(負荷がかかる部分)も変わります。この瞬間、疼痛部位が負荷から解放されます。これを「始動点と支点の移動」といいます。
始動点と支点は患者の体に指を触れるだけでも動きます。患者は触れられただけで症状が変化したと感じます。
間合い
活法が殺法の裏であるという事実が如実に表れています。戦では相手の間(ま)に入った瞬間から不利になります。自由な動きを封じられてしまうからです。逆に、自らの間(ま)では自由に動けるため有利になります。
活法では、術者は自らの間で患者を施術します。これは、すべてのテクニックを活かすためのベースです。
面点の法則
接触が面から点の順だと、患者と術者の間に対立が起きません。患者は無意識にうちに術者を受け入れる方向に誘導され、施術効果が高まるだけでなく、患者と術者の良好な関係が築かれます。すべてのテクニックに通じる基本です。
透し
対立(反発)を生まないように作用させるテクニックを透しと言います。語源は「戸押し」。引き戸は力まかせに押すと跳ね返ってきます。ピタリを閉めるには力に勢いに頼らない力が必要です。透しはあらゆる場面で応用ができます。
建築学的考察
立位でバランスをチェックします。骨盤の傾きなどから肉体にどのような負荷がかかっているのかを考察します。
比較現象学的考察
現象を比較の中から探し出します。臨床において現象は症状です。現象の消失は症状の消失です。たとえば、「痛い」という言葉に直接働きかけることはできません。対応できるのは背景にある現象です。現象の消失は「痛い」をも消失させます。
多くの現象(痛み)は動作の左右差を生みます。術者はこの差を取ることを目的とします。治そうとするのではなく「差取り」を行うのです。差取りの結果、陰陽が成立し痛みが消えます。治そうと思わない意識が「悟り」です。
固定と移動
「動かすと痛い」ならば痛みの部位を動作の中心にしてしまえばよいという考えです。「固定と移動」は痛みの部位を固定し、関連部位を移動させるテクニックです。操法の中心的テクニックですが、あらゆる場面で応用できます。
同調と同化
筋肉レベルにおける同調と同化、動作レベルにおける同調と同化があります。前者は異常部位を正常部位に同調させ同化を狙います。導引で使われる基本テクニックです。後者は術者が患者に働きかけるとき、同じ姿勢や動作を行うことで、正常な術者に患者を同調させ同化を狙うテクニックです。
筋肉学
武術において、筋肉の研究もまた重要でした。相手の動きを封じ、自らの筋力を最大限発揮させる方法を知らなければなりません。
協調性のある筋肉は、連動した関節の動きをもたらします。滑らかで滞りのない動作が可能になります。活法では、柔術で研究されてきた筋肉の特性を利用します。瞬時に筋肉を弛緩させたり、筋力を回復させることもできます。
押し引き
押し引きとは、患者の肉体を術者のものと化すテクニックです。術者は「我がもの」とすることで、思い通りに患者の肉体を扱うことができます。
形態力学的考察
形態的な歪みを正そうとするとき、ズレた所を元の位置に戻そうと考えます。しかし、ズレに力を加えたら戻るというほど単純ではありません。術者が無理な力を加えれば患者からの抵抗を受け、両者は対立してしまうからです。活法では、術者が基準点を決め動きやすい所にアプローチするため対抗を受けません。
導引(筋肉調整術)
活法における導引とは、患者を術者の言葉と所作で誘導し、筋肉を調整する技術のことを言います。肉体(筋肉)のみならず、心に働きかけ、心身をよい方向に導きます。
患者参加型の施術であることも特徴の一つです。患者と術者が同調し、同化することが技の中枢になっています。術者の技量の他、患者の積極的参加が求められます。
患者と術者が一体となることによって、患者も症状に対して主体的に向かうことができます。回復への意識を高まる効果をもちます。好転した際は、患者自らが達成感を得やすいと言えます。
同調と同化
同調と同化は、導引術の根幹となる理論です。筋肉の過度な緊張を緩和させようとするとき、一旦、この過度な緊張状態に周辺の筋肉を同調させます。つまり、目的の過緊張部位と周辺の正常部位が同調し、波長がそろいます。
次に、一体感が生まれた筋肉(過緊張+正常)を瞬間的に脱力状体に向かわせると、過緊張部位は正常部位と同化してしまいます。過緊張部位が痛みの原因点であれば、この瞬間に痛みの発現点は減少もしくは消失します。
操法
操法とは、術者の身体的操作によって患者の自然体を導く技法です。術者の意識が描く動作と実際の動作の一致が技術の完成度を決め手です。
患者の肉体を術者の意識下に置くことがポイントで、術者自らが思い通りに肉体を操ることが前提条件となります。
牽引
牽引は、つまり過ぎた関節を開放するテクニックです。一般的な牽引と違って引く力は問題ではありません。活法の牽引の特徴は、患者自身が自然に関節を開放してしまうところにあり、そのような状態に導くことがテクニックです。
主に患者の体重や姿勢を利用します。高度なテクニックとしては、術者が自らの関節を開放することで患者の肉体を(開放した状態に)同調させていくものもあります。
神経調整
坐骨神経痛のような神経を原因とする症状に使われます。神経の正常な活動状態を再現させ、自然状態を安定化させていくテクニックです。
筋肉調整
筋肉に本来の収縮方向を喚起させるテクニックがあります。本来の収縮運動が回復し、関節運動が向上するだけでなく、筋力が回復します。
また、筋肉を本来あるべき位置に戻し効率的に働ける位置に調整するテクニックもあります。
関節調整
対象の関節を自然な状態に戻すテクニックです。また、対象の関節の動作を妨げる要素、つまり連動性を損なわせている原因を排除します。
カイロプラクティックに似たテクニックもありますが、活法は骨の位置を問題とせず自然な動作の回復を目的とします。この種のテクニックに対して恐怖心を抱く患者もいることから、状況に合わせて使用します。いずれにしても、無理な力は絶対に加えません。
意識調整
操法各種テクニックにおいて意識の調整が行えます。正しい動き、正しい状態を積極的に患者に認識させていきます。「動ける、痛くない」状態を患者に意図的にインプットすることで「動けない、痛い」という負のスパイラルから抜けることができます。
自己調整術
活法では、他人へ施す術の他に自分自身を調整する術も伝えられています。術者が患者に接するときなどは、術者の状態いかんによって結果が変わってきます。自己調整は患者に対する礼儀と言えるでしょう。
また、患者自身が術者に頼ることなく自らを調整することで、身心の調和が図れ、思った通りに体が動く状態により早く近づくことができます。
患者は中心を欠いている部分に不都合が発生し、痛みなどの症状が表れます。
術者に中心があれば、患者と同調同化させることで、患者も中心を持つことができるようになります。
人は痛みがあると、そこから動こうとします。最終地点が同じでも、最初に動くポイントが変わると、脳は「痛くない動作」と認識を変えます。この錯覚を利用して調整することができるのです。