脳科学で、はり治療は医学になる。
はり治療の科学的研究をスタート
整動協会・副代表の谷地です。
鍼(はり)治療の効果を科学的に検証するという研究が、今年の11月からスタートしています。
整動協会と、北斗病院(北海道帯広市)の共同プロジェクトになります。
鍼治療の科学的研究は、整動協会設立目的の一つでした。
北斗病院の協力を得ることで、想定外のスピードで研究が進んでいます。
科学的研究への衝動
整動協会は「整動鍼(せいどうしん)」という新しい鍼治療の技術体系を提供しています。
整動鍼で設定されたミリ単位のツボに鍼をすると、ツボから離れた身体の特定の部分に、決まった変化がほぼ確実に起こります。
例えば、整動鍼の六谿という手にあるツボに鍼をすると、首を回旋する動きの可動域が、非常に高い確率で増加します。
臨床で整動鍼を使っていると、その再現性の高さから、未だ明かされていない人体の科学的な理屈の存在を感じずにはいられません。
この理屈を解明出来れば、ツボと体の動きを中心とした全く新しい人体理論を手に入れることができ、鍼灸のみならず、医学の新たな発展に繋がると考え、我々は科学的研究への道を模索してきました。
北斗病院というパートナー
▲左が谷地、中央が加藤先生、右が整動協会代表の栗原
研究リーダーは北斗病院の加藤容崇先生です。加藤先生は北大医学部出身の病理医で、ガン研究の専門家です。北大を出た後、ハーバード大学に留学し、今年の夏に北斗病院所属となりました。
アイデアが閃いたらすぐにチームを結成し、スタートするのがハーバード流です。
加藤先生が思いついてから実際の実験データを出すまで、1ヶ月もかかっていません。
この驚異的な進行スピードの要因は、加藤先生の高スペックはもちろんですが、北斗病院の特殊性もあります。
日本では、研究のアイデアがあっても、承認や予算の獲得などに時間をとられ、実験データが出るまで下手をすると2〜3年かかる事も珍しくはありません。
北斗病院は、大病院にもかかわらず、非常にチャレンジングな経営スタイルをとっており、医学研究で革新的なアイデアが出ると、すぐにゴーサインが出ます。
はり治療の研究がこれだけ早く進んでいるのは、そのおかげです。
脳のはたらきを計測するマシーン
▲脳の磁気を計測するMEG
研究には、脳磁気を計測するMEGというマシーンを使います。
磁気は電流が通ると影響を受けて変化します。脳の発する磁気の変化を詳細に計測することで、脳内の電気信号の流れが見えてきます。脳の活動は電気信号がメインですから、脳の磁気の変化を知れば、脳の働きを知ることができるのです。
脳研究と言えばMRIが有名です。MRIが脳の形状を計測する装置であるのに対し、MEGは脳の機能、つまり、脳の「はたらき」を計測する装置です。
解剖学的なアプローチでは無く、「はたらき」に着目するMEGは、身体の働きを改善する鍼治療の研究と相性が良いはずです。
しかし、MEGは最新機器なので、扱える人はまだ少なく、複雑で膨大なデータを解析するのも専門家でなければ不可能です。
その点、幸運なことに、MEG研究の世界的中心地であるロンドン大学でMEG研究に携わっていた医師であり、MEGスペシャリストの鴫原良二先生が北斗病院にいらっしゃいます。
加藤先生から、はりの研究の話を聞いた鴫原先生が、面白そうだと関心を寄せていただけたので、このプロジェクトが可能になりました。
はり治療の効果の研究モデル
研究のモデルはシンプルなものです。
まず、症状のある方の脳をMEGで計測します。
次に、はり治療をして症状を緩和します。
最後にMEGで脳を計測し、はり治療による脳の変化を捉えます。
これにより、はり治療の効果を科学的に解析していきます。
科学的な解析ということは、数値化するということです。
効果の数値化は、はり治療の未来にとって、大きな意味を持ちます。
はり治療の医学的な問題点
一口に「はり治療」といっても、鍼灸師によって、理論も、方法も、使う鍼(はり)さえも、統一されていません。
一人一流派と揶揄されるくらい、流派が乱立し、治療法がてんでバラバラという現状があります。
オリエンタルな文化遺産としてならば興味深い多様性ですが、現代医学の仲間入りをするためには、この状況は致命的です。
この状況の主な原因と考えられるのが、どの治療方法が一番効果的であるかを測る指標がなかった事です。
今回の研究で、効果の数値化が出来れば、どのやり方が一番効果的であるかを比較することが出来るようになります。
はりの標準治療確立を目指して
ある症状に対して、最も効果的な鍼治療の方法が明確になり、どの程度の改善が科学的に見込めるかがハッキリすれば、はり治療は現代医学の新たな仲間として認められるはずです。
現代医学では、全ての医師が、科学的に最も効果的とされる治療法を第一選択とする事が求められています。
科学的に最も効果的と考えられる治療法をまとめたものを標準治療といいます。
はりの標準治療を確立することが、今回の研究の第一の目標です。
そして、どの病院、どの医師、どの鍼灸師であっても、ある症状に対する第一選択として、「はりの標準治療」を採用する状況を作り出すことを第二の目標としています。
整動鍼だから。整動鍼を超えて。
実験をしてみて強く感じたのは、整動鍼と科学的解析の相性の良さです。
ミリ単位で設定されたツボに鍼を一本して、すぐに効果を確かめるという整動鍼の手順は、そのまま実験モデルに組み込める上に、データ化がしやすいのです。
効果を出すために、いくつものツボへの針刺激が必要だったり、効果が出るまで時間がかかったり、被験者の体調や術者の感性でツボの位置が変わるやり方では、実験が煩雑になり、効果が出たとしても、どの部分が効果を出したのかを解析するために、膨大なデータが必要になってしまい、多くの時間と資源が必要となってきます。
科学的実験と相性の良い整動鍼の採用は、今回の研究のスピードをさらに加速させています。
研究が進み、ある程度、データがまとまったら、多くの鍼灸師にご協力いただき、様々な「はり治療」のデータを集めていきたいと考えています。
個人的には、整動鍼が標準治療に最も近いと考えていますが、より効果的なやり方を見つけ出し、標準化治療に組み込んでいくのも大事な仕事です。
主義や主張、イデオロギーとは関係なしに、患者さんにとって最も効果的な選択をするというのが、医学として認知されるための最低限の条件だと思っています。
想像以上の早さで
通常、研究で苦労するのは、被験者の数です。
その点、今回は恵まれています。
北斗病院は大きな総合病院な為、患者さんや職員の数が膨大であり、さらに、実験がシンプルで、被験者の負担が非常に小さく、症状も改善するということで、協力していただける被験者を集めるのも、思った以上に順調に進んでいます。
11月15日にミーティングがあり、12月14日から本格的に研究がスタートしました。年内には、被験者数が二桁を超える勢いです。
データ解析でも、興味深いものが出ています。論文化への作業も始まっています。
この結果を受けて、北斗病院で「はり治療」本格的採用へ向けてのお話も出てきています。
我々の想像をはるかに超えるスピードで、研究が進んでいます。
この先に待っているものは、どんな未来でしょうか。
この幸運を多くの皆さんと共有し、今までベールに包まれていた、はり治療の真の可能性を解放することで、世界中の医療に大きなインパクトを与えたいと考えています。
2017年12月27日カテゴリー:活動報告
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