はり治療を科学する風景
疾走40days
整動協会・副代表の谷地です。
2017年12月14日より正式にスタートしたはり治療の科学的解析プロジェクト。
1ヶ月半が経ち、被験者数が20名を超え、論文化に十分な内容が揃ってきました。
ちょっと専門的になりますが、有意差0.001以下の現象を確認しています。これは実験データとしては結構すごいことです。
日本の一般的な研究者の感覚では、2〜3年かかるくらいのボリュームを既に消化しています。
正月休みを挟みつつの、40日という短い期間で一気に駆け抜けました。
今回は、みなさんにこの疾走感を感じていただくために、私がどんな感じで研究に参加しているかを報告させていただきたいと思います。
帯広への距離感
研究は、毎週木曜日に行われます。
研究施設のある北斗病院は、帯広市にあります。同じ北海道にあるとは言え、札幌から見ると帯広は日高山脈を超えた向こう側にあり、196kmの距離です。
東京から196kmというと、このような感じです。
私は本州に詳しくないのですが、東京から見ると郡山とか会津若松とか、そんな距離感に近いはずです。
距離があるので、出発は早朝になります。冬の北海道ロングドライブは、仮想通貨に全財産をぶち込むくらいハイリスクなので、臆病な自分はJRを利用しています。
最寄りのJR白石駅から、6時48分発の快速で新札幌まで行き、7時9分発の特急スーパーおおぞら1号に乗り換えをします。
特急で帯広駅まで2時間30分の旅です。この間、関連論文の読み込みや、同行する鍼灸師との打ち合わせをしています。
▲愛知県半田市から駆けつけた整動協会学術部長・舟橋幹也先生と共に
帯広駅からは、タクシーで北斗病院に向かいます。
進軍ラッパ
北斗病院には10時頃到着します。医師用の当直室の一つを借りて、仮事務所とさせて頂いています。
実験は12時過ぎからはじまることが多く、それまで、論文化の準備や、研究リーダーである加藤容崇先生とミーティングをしたりします。
加藤先生とのミーティングは刺激に満ち溢れています。ちょっとしたアイデアが、実験計画につながり、世界中の研究者とのコンタクトがはじまります。
このスピード感こそハーバードスタイルなのでしょう。
さらに、通常だと予算の問題や、倫理委員会の問題など、越えるべきハードルがいくつも存在し研究が遅延する原因になりますが、北斗病院はトップの決断が早いので、面白いアイデアがあるとすぐに進軍ラッパが鳴ってしまう状況です。
こういう環境なので、世界中から面白い研究をしたい人達が集まってくるのだと思います。
次の展開
今回の研究も、論文化の目処がついてきたので、次の展開について話し合っています。
ガン患者の疼痛コントロール、突発性難聴、顔面神経麻痺、リハビリ支援、花粉症、腰痛、、、などなど、はり治療の得意な分野での臨床研究が予定され、すでに各科との調整がはじまり、必要な機材も一部購入済です。
論文発表後は、海外展開も計画されています(北斗病院は海外施設もあります)。
アメリカの学会にもエントリー予定です。
鍼灸師育成計画
計画が走り出せば、国内外問わず、必要となる技術を備えた鍼灸師が多数必要になることが予想されます。
専門学校を卒業しただけの技術だけでは、臨床は難しい面があります。臨床での実習を増やすため、北斗病院と共同で鍼灸師の研修計画を立案中です。
論文がアクセプトされれば、これらのプロジェクトが一気に走り始めます。
実験開始
お昼過ぎに、実験の舞台となるMEG室に移動します。
臨床実験は被験者さんを集めるのが大変なのですが、加藤さんの人脈と、北斗病院の職員さんのご協力のもと、毎回2〜5名集まっていただいてます。
まず、被験者さんに、今日の状態についてアンケートを書いていただき、問診をした後、MEGで治療前の脳磁場を測定(5分)します。
次に、症状に関係あるツボに一本鍼をし、身体の変化を確認後、もう一度、MEGで治療後の脳磁場を測定(5分)します。
測定後、身体の変化について感じたことを被験者さんにアンケートに書いていただき終了です。
鍼一本で結果を出さなければならないので緊張しますが、今のところ、高い確率で痛みや可動域など身体の変化をハッキリ出すことが出来ており、データの集積はスムーズに進んでいます。
流派を超えて
はり治療と一口に言っても、多くの流派が存在し、理屈も様々です。
気、脈、寒熱、五行、筋膜、トリガーポイント、自律神経、、、、、etc、それらを考慮に入れると、非常に複雑なことになって、研究がいつまでたっても進まず、気付いたらまた2000年経ってしまうかも知れません。
このため、今回は「はりをすると、身体に変化がある」という現象のみに絞って解析しています。
「はりをすると、身体に変化がある」というのは、はり治療全般に共通する現象のはずです。数値化出来れば、どんな流派であれ、どのような理屈であれ、どれくらい効いてるかがわかるようになります。
「はりのどのやり方が、どのくらい効くのか」がハッキリすれば、流派やイデオロギーを超えて、全ての鍼灸師にプラスになると考えています。もちろん、患者さんにも大きな恩恵をもたらすでしょう。
データをまとめて汽車に乗ろう
実験が終わると、データのまとめ作業に入ります。MEGのデータは高度な専門知識が必要なので、第一人者である鴫原良仁先生にお任せしてます。
私は、被験者さんの治療前、治療後の状態や、はりの種類、ツボの位置、深さ、などの細かいデータをまとめています。論文化するためには、誰でも再現出来るメソッドとして記述しなければなりません(それも英語で、、、)。
この作業が18時半まで続きます。まとめたデータを加藤先生に提出したら、タクシーに飛び乗り、帯広駅へ向かいます。
19時22分発の特急スーパーとかち10号で札幌へ。
帰りの車内では、整動協会への報告書を書いています。
帰宅は23時近くになります。私を待っている息子に、お土産を渡して1日の仕事が終了です。
スケジュール上、十勝のお土産を買う暇はありませんが、近所のコンビニで買ったお菓子でも5歳児は喜ぶので助かります。
鍼灸師求む
様々な幸運が重なり、はり治療の効果を解析し、論文化する機会に恵まれました。しかし、大事なのは、その後だと考えています。
さらなるデータを集積し、鍼治療の科学的に裏付けされた領域を拡張していくためには、流派を超えた多くの鍼灸師の先生方のご協力が必要です。
また、増大していく鍼灸師の需要に応えるために、多くの若い鍼灸師の力が重要になってきます。
今後、出来るだけ多くの鍼灸師の先生方に、広く研究を理解していただき、ご協力いただくことを目指しています。
そのため、希望する先生には、研究へできるだけ同行していただいています。
交通費が自腹であること、スケジュール的に帯広らしい気分を味わう時間が無いこと、三食コンビニ弁当にならざるをえないことなど、心苦しい点が幾つもありますが、、、。
まだ公表出来ないデータもある関係上、まず、整動協会所属の先生が優先になりますが、順次、協会外の先生方にもご同行いただきたいと考えています。
歴史の歯車を早めるための試みに、ご協力下さい!
2018年2月1日カテゴリー:活動報告
コメントを残す