セミナーレポート(仙腸関節スペシャル)「医学的に正しいという思考停止」
代表の栗原誠です。
昨年(2024年)12月22日(日)、講師に柔道整復師の吉岡一貴先生をお招きし、仙腸関節の特別講義をしていただきました。今回はそのレポートです。
巷でよく聞く「骨盤の歪み」。この言葉の意味を正確に理解して使っている施術者はどれくらいいるのでしょうか。そもそも「歪む」の定義をどう決めているのでしょうか。
このセミナーは、「正常な仙腸関節とは何か」と問いかけるところから始まります。正常がわからないままでは「歪む」が理解できないからです。
SNSでは「骨盤の歪み」を主張する整体師に対して、「骨盤が歪むはずがない」と主張する医師と、その主張に乗っかり科学的姿勢をアピールする鍼灸師や柔整師の姿をよく目にします。私はこの構図を見るたびに「盲信」という言葉が頭に浮かびます。
骨盤が歪むはずないと盲信する人々
骨盤は歪むと盲信する人々
どちらも、誰かが言った言葉を信じているという点では同じです。医師が「歪まない」と言ったから医学的に正しいと思い込み、有名な整体師が「歪む」と言ったから歪むものとして考えてしまうわけです。
SNSを眺めていると、骨盤が歪むという整体師に医師が噛みつき、その整体師が開業コメディカルたちの集中砲火を受け炎上する光景が目に映ります。「骨盤は歪まない」と言った方が医師ウケが良いことは間違いありません。ですが、ここでは、どういう立場が都合が良いかと考えることはしません。どんな評価を受けるとしても、実際はどうなのかを、医学的にではなく構造的に追求していこうという立場です。
構造的な分析の前では、すべての医療従事者が平等です。医療従事者である必要もありません。その上で、骨盤は歪むのかを考えると建設的です。その建設的作業をコツコツと積み上げてくださったのが、ゲスト講師の吉岡一貴先生(柔道整復師)です。
このセミナーは手技療法を習うものではありません(最後にデモンストレーションがありますが)。仙腸関節の構造を、骨の構造を丁寧に観ていくことで、関節の役割を導き出すものです。仮に仙腸関節が関節でないのなら、仙腸関節は動かない、歪むはずないと直ちに結論付けられます。しかし、実際には関節構造が存在しています。そして、その関節は靭帯で覆われています。動く必要がないのであれば、関節構造がある理由を説明するのが困難です。
関節構造があるのは、動くためと考えるのが妥当です。問題は、どう動くのか、どれくらい動くのか、です。動くのであれば、左右の寛骨の位置関係に変化が生じるわけですから、その変化を捉えて「歪む」と考える人がいるのは当然です。
吉岡先生によると、生きた人間で仙腸関節の動きを正確に計測するのはむずかしいそうです。それほど、動きの幅(可動域)が狭いということです。現時点では、仙腸関節の可動性を数値で示すのはむずかしいと言えます。だからといって、動かないと言ってしまうことは思考を放棄することに等しいです。
そもそもの話、「骨盤が歪む」と言う人も「骨盤は歪まない」という人も、仙腸関節の本当の動き方を知らない可能性があります。たとえば、私は仙腸関節の動きは並進(スライド)だと思っていました。なぜなら、専門書にそう書いてあったからです。吉岡先生はその前提を疑っています。吉岡先生の話を聞き、私もそのように考えるようになりました。
私の中に「吉岡先生を信じる」という信仰があるのかもしれません。そう言われても仕方ないでしょう。ですが、仙腸関節の関節面を丁寧に観察すれば並進するはずがないと直感的にわかります。なぜなら、関節面はゴツゴツとした凹凸があるからです。ゴツゴツしたもの同士がスライドするはずがありません。スライドできたとしても、関節面の凹凸がすぐに磨り減ってしまいます。
吉岡先生の理論は、定説である並進を疑うところから始まります。動きを並進を前提で考えている限り、骨盤の動きを理解することはむずかしいでしょう。骨格模型で関節面を示されたら「そうだよね」と直感的にわかる話でも、平面図では、さっぱりです。仙腸関節の耳状面を模型でじっくり観察した人はどれくらいいるのでしょうか。恥ずかしながら、私は吉岡先生に出会うまでまじまじと関節面を見たことがありませんでした。
並進でなければどんな動きなのでしょうか。ここから先はセミナーの内容になってくるのですが、一言で表せば微細なシーソー運動です。関節面の重なり合う角度がほんの少し変わるのです。そのわずかな傾きに役割があるのです。
吉岡先生が立てた仮説が正しいとは保証できません。吉岡先生自身が「間違っていると思ったら指摘してほしい」と公言しています。私が吉岡先生を講師に招く理由はただ一つ。これほど丁寧に積み上げられた理論を他で見たことがないからです。また、そうであろうという前提で人体を観察すると腑に落ちるからです。理論と現象が直結しているのです。
吉岡先生の仮説に基づけば、骨盤は歪むものになります。ですが、このまま表現すると、SNSで不必要な論争に巻き込まれる可能性があるため、私自身は使わないようにしています。臨床家として自信をもって言えるのは「仙腸関節は動くもの」として骨盤を理解しなければ、多くの情報を見逃してしまうことです。
「骨盤が歪むわけないw」
このような思い込みがどれほどの損失を招いているか、このセミナーに参加するとわかります。次回は6/15(日)ですが、すでに満席となっています。ニーズがあれば学ぶ機会を設けていく予定です。
6/15(日)に参加予定の方は楽しみにしていてください。会場で会いましょう。
またね。
2025年4月13日カテゴリー:セミナーレポート