活法と整動鍼の使い分け(前編)「鍼灸とマッサージの違い」
代表の栗原誠です。
整動協会のブログの第1回のテーマは、活法(かっぽう)と整動鍼の使い分けについてです。
このテーマを冒頭に持ってきたのは、誰もが気になるところだろうと思うからです。実際に、質問をたくさん受けます。臨床での使い分けの話でもあるし、これから受講しようと思っている方にとっては、限られた時間とお金をどちらに使おうかという話です。
このテーマは大事に扱いたいので、3部に分けて説明します。
◎前編 鍼灸とマッサージの違い
私の経験に基づいてマッサージを頑張り続けても鍼灸が上手くならない理由を説明します。(この記事)
◎中編 マッサージと活法の違い
マッサージと活法では、相手(患者さん)との関係が全く違います。その理由を知ると新しい景色が見えてきます。(→中編から読む)
◎後編 テクニックを超えた価値
臨床で活法と整動鍼をどう使い分けているのかという具体的な話。すぐに結論を知りたい人はこちらからから読んでください。(→後編から読む)
活法は整体であって整体ではない
活法を整体と表現していますが、本当は整体の枠に収まりきれません。物事の考え方、体の使い方、作法なども含みます。時には思想的であったり観念的であったりします。
初学者にとってはテクニックとしての活法が大事です。具体的な技術を学び、臨床で使っていく中で本質に近づいていくのです。
テクニックレベルでは、活法と整動鍼を臨床の中で使い分ける方法がテーマになります。それがわからないと、どちらを先に学ぶべきかにも答えが出ません。
答えは一人一人違うと思います。この記事では、私自身が過去を振り返りながら、活法と鍼灸の関係を考えていきます。
活法を考える前に触れておきたいのがマッサージのことです。マッサージを考えることで活法の価値が見えてきます。
鍼灸専門で窮地に立たされる
私は、活法に出会うまで鍼灸師専門でやっていました。あん摩マッサージ指圧師の免許も持っているので、技術的には学校での3年間で得たものがあります。
鍼灸学校で、鍼灸の他、あん摩マッサージ指圧師(あマ指)の免許を取得しました。もう16年も前の話です。卒業後、鍼灸ができる就職先が見当たらず、稼ぐために重要なのは、あマ指の方でした。
わずかな期間、あマ指で食べていました。鍼灸ができる日を夢見ながら…。
そもそも、鍼灸師になりたくて専門学校に入りました。あマ指の免許は鍼灸の役に立つだろうとオプション的な意味で取りました。あマ指で食べている状況は、既に目標か外れているのです。職業を変えるくらい違うことです。
未熟を承知で、鍼灸への愛と、若さから湧き出る勇気だけで、マッサージをしない鍼灸院を開業しました。
今では、それほど違和感がない考え方ですが、私が開業する15年ほど前は、「マッサージで集客して患者さんを口説いて鍼に持ち込む」的な考え方が、開業時に向けられるアドバイスの主流でした。
だからこそ、マッサージとの決別をしなければならないと考え、開業してからはマッサージはしないと決めました。
知識も経験もない私に戦略などありません。周囲の予想が的中。いきなりの経営難。みんなが「マッサージすればいいのに…」と思っていたでしょう。
それでも私の気持ちは変わりませんでした。マッサージの延長上に理想の鍼を描くことはできなったのです。
マッサージでは得られないこと
大赤字の鍼灸院経営は1年続きました。じたばたしていたら2年目から利益を出せるようになりました。2年目は1年目の赤字を埋めるので精一杯ですから、収入らしい収入を得られるようになったのは3年目からです。
きっかけはありました。患者さんが鍼灸に求めるものが分かったのです。鍼灸とマッサージでは違います。そのことを意識してから売り上げが安定しました。一人では対応しきれないほど患者さんが集まりました。
過去を振り返って確実に言えることがあります。鍼灸師がマッサージで得られることは部分的です。
「マッサージから学ぶものがない」とまでは言いません。鍼灸には鍼灸に必要な知識や技術がたくさんあると言いたいのです。それが分かっているのであれば、マッサージが鍼灸術のトレーニングになると思います。
悲惨なのは「10年揉み続ければ鍼灸が上手くなる」という誰かの言葉を信じてしまうことです。その10年でやるべきことが山のようにあります。鍼灸独自のものを身につけなければなりません。
たとえば応答速度。鍼は鋭利なので体のリアクションもスピーディです。瞬時に捕まえる能力が必要です。他には、点で捉える能力。「ツボ」と呼び方は同じでも、そのスケール感が全く違うことがあります。他にもまだまだあります。
評価の基準
鍼灸とマッサージでは評価基準が違います。
何かの症状を改善させる時、気持ち良さが重要であるとは限りません。「良薬は口に苦し」という言葉あるように、相手が「甘い」と感じる方が良いとは限らないことがたくさんあります。
マッサージでは、施術の価値がその場で決まることがほとんどです。誰の意見でもなく患者さんが決めます。でも、鍼灸は違います。その場では評価できないことが多々あります。たとえば、突発性難聴の治療。何度か通院してから改善に気が付くこともあります。
効果の指標は聞こえるようになったかどうかです。いくら施術が気持ち良くても聴力が回復していなければ、患者さんを救えません。
鍼灸とマッサージでは「上手い」の指標が全く違います。その違いを理解する機会を得ないまま、ただ患者さんの声に耳を傾けていくのは危険です。
(中編につづく…マッサージと活法の違い)