鍼の効果を、その場で確かめるという発想

鍼をした後、何が変わったのか。これは、鍼をする人なら誰もが気になることだと思います。ただ、その変化を確かめるには、鍼をする前に決めておかなければならないことがあります。何を変えるつもりで、その鍼をするのかということです。
たとえば、「肩こりに合谷を使った」とします。合谷に鍼をしたことはわかりますが、それだけでは何を確かめたらよいのかわかりません。肩の重さなのか、首の動きなのか、触れたときの筋肉の硬さなのか。何かがよくなればよいということなら、確認するものも、その場で探すことになります。
私は、ツボを選ぶことと、その効果を確かめることを、ひと続きのものとして考えています。鍼をしてから変化を探すだけではなく、どこに変化を起こしたいのかを考えて鍼をする。そのために、まず身体の状態を具体的に捉えます。
「肩こり」を、もう少し詳しく見る
説明のために、右を振り向こうとすると首から肩にかけてつっぱる人を想像してみてください。「肩こりです」という訴えを聞いただけではわからなかったことが、実際に動いてもらうと見えてきます。左には向けるけれど右には向きにくい。右を向く途中でつっぱりが現れ、それ以上は動かしにくい。ここまでわかると、施術の前後で比べるものが具体的になります。
整動鍼では、こうした動きと、触診で確かめた緊張を手がかりにしてツボを選びます。右を振り向く動きを変えたいのであれば、その動きを妨げている緊張はどこにあるのか、それに対してどこから働きかけられるのかを考えるのです。症状の名前からすぐにツボを決めるのではなく、身体に起きていることを間に挟みます。
このときの手がかりが、身体の「連動」です。首を動かすときにも、首だけがほかの部分と無関係に働いているわけではありません。整動鍼は、身体のつながりを、ツボに鍼をしたときに生じる動きや緊張の変化と照らし合わせて整理してきました。その関係を使って、起こしたい変化に合うツボを考えます。
一本の鍼の前後で比べる
ツボを選んで鍼をしたら、もう一度、右を振り向いてもらいます。先ほどより右まで向けるのか。途中で感じていたつっぱりはどうなったのか。動く範囲だけでなく、本人が感じている動かしやすさも聞きます。比べる動作を先に決めておけば、患者さんも何を確かめればよいのかわかります。
ここで気をつけたいのは、動く範囲と、患者さんが困っていることを同じにしないことです。前より右まで向けても、気になっていたつっぱりは残っているかもしれません。反対に、向ける範囲はそれほど変わらなくても、「さっきより楽に振り向けます」と感じることも考えられます。術者に見える変化と、患者さんにしかわからない変化を照らし合わせる必要があります。
整動鍼で、原則として一本の鍼に対して変化を確認するのも、この比較を大切にしているからです。何本か鍼をしてから動きが変わった場合、どの鍼がどの変化に関係したのかは切り分けにくくなります。一本ずつ確かめることで、そのツボを選んだ判断を振り返る手がかりが得られます。

変化がなければ、なかったところから考える
右を振り向きやすくしたくて鍼をしたけれど、変わらなかった。このときにも、確認したことが役に立ちます。取穴は適切だったのか。別のツボを考えた方がよいのか。そもそも、動きを妨げている緊張をうまく捉えられていたのか。何を狙っていたのかが明確であれば、見直すことも具体的になります。
もちろん、一度の反応だけで理由を決めつけることはできません。変わらなかったから取穴の間違いだ、とすぐに結論を出すのも早いでしょう。ただ、変わらなかったことを曖昧にして先に進んでしまうと、その判断を振り返る機会も失います。期待していた変化が起きたかどうかは、率直に見ておきたいのです。
整動協会に寄せられた受講者の感想に、印象に残る言葉があります。2022年2月21日の脊柱編を受講された丹羽裕樹さんは、「『効いた気がする』ではなく、効かない時は『効かなかった』と言える雰囲気は良いと思います」と書かれています。これは受講者個人の感想ですが、私が大切にしたい学び方を表していると思います。
出典:整動協会「受講者の声」
その場の変化から、次の臨床へ
その場で効果を確かめるというと、即効性の話だと思われるかもしれません。確かに、変化をその場で共有できることには価値があります。ただ、私が重視しているのは、変化が起きるまでの速さだけではありません。何を狙って鍼をし、その結果どうなったのかを、患者さんと術者が確かめられることです。
また、その場で動きが変わったことと、症状が解決したことも分けて考える必要があります。振り向きやすくなったとして、その状態がどのくらい続いたのか、仕事中の肩の重さはどうだったのか。その後の経過を見なければわからないこともあります。その場で確認できた変化を、治療全体の結果にまで広げてしまわないようにしたいと思います。
ツボを学ぶとき、場所や適応を覚えることに関心が向きがちです。しかし、どんな身体の状態を見てそのツボを選び、何を変えたくて使い、どう確かめるのか。そこまでつながっていると、うまくいったときにも、思うようにいかなかったときにも、次に考えることが見えてきます。
整動鍼では、身体の見方、ツボの選び方、変化の確かめ方を、一つの体系として伝えています。「このツボが効いた」で終わらず、その鍼によって何が起きたのかを具体的に話せるようになる。その積み重ねが、自分の臨床を振り返り、仲間と経験を共有することにつながると考えています。
整動鍼をこれから学ぶ方は、はじめて受講する方へをご覧ください。























